文章執筆ツールとしてのテキストエディタ(令和元年)

文章執筆ツールとしてのテキストエディタ(令和元年)

表題のこの文章は、20年以上も前に書いて何度か改版をしているが、最後の改版からも随分時間が経っているので、なるべく令和の今に合うように再度改版してみたが、状況も異なっている部分が多く、全面的に見直す必要もある。

前文 - 文章執筆ツール

 文書を作成し、形式を整えて印刷し、作成した文書を保存しておくという一連の文書処理は、既にPCを用いて行うことが一般的である。このような処理過程に使用されるアプリケーションとしては、ワープロが思い浮かぶ。文書作成と印刷、文書管理までを一つのアプリケーションで統括できるため、文書処理に多用されているのである。

 しかし、文書作成の最も根幹となるのは文章執筆という作業である。ワープロにおいてもこの作業は重要視されているが、同様に文章執筆を行うアプリケーションとして、テキストエディタがある。テキストエディタは、文章執筆以外でも様々な目的に利用されているが、ここではWindows環境における文章執筆ツールとしてのテキストエディタを紹介したい。

テキストエディタとは

 テキストエディタ(=エディタ)は元々、プログラムのコードを書いて編集するためのツールとして使われていた。その性格上、ファイル管理や文字列操作などの編集機能に非常に優れており、作業を楽に行うために、ユーザー好みの環境が作り出せるようになっている(これをカスタマイズという)。エディタのこうした特徴は、文章の作成や編集にも有効に利用することができるため、文章執筆ツールとしても多用されるようになった。

 MS-DOSの頃からWindows時代の今に至るまで、文章執筆ツールの王道をゆくワープロは、様々な機能の追加によりプログラムサイズが増加し、高度な動作環境を要求するようになったことと共に、動作速度の低下も招いた。その上、作成するファイルは独自の形式であるために、幅広い活用ができないという問題も生じた。

 もともとプログラムのコードを作成し編集するツールであったエディタには、文字列の装飾や印刷レイアウトに関する機能は不要だった。このため、プログラムサイズはコンパクトで、起動はほぼ瞬時に行えるものもあり、動作はワープロよりずっと軽快だった。
 扱うファイルがテキストファイルであるため、作成した文書は様々なアプリケーションで活用できる。高度なテキスト編集機能が特に文章執筆のプロに持て囃されたことにより、エディタは文章執筆ツールとしても市民権を得た。エディタはこのような状況を受けて文章執筆にも主眼をおいた設計となっているものもあり、愛好者も増えた。

 ただ、今となってはワープロもそんなに重たいアプリケーションではなくなってきているし、文章執筆ツールとしてワープロを使うのも悪くはないという状況で、エディタを使うよりブラウザだけで完結することも一般的になった。コーディングに関してもマルチプラットフォームの新しいエディタが使われるようになってきて、ここで説明する従来型のエディタの使われ方は変わりつつある。

様々なエディタ

 一口にエディタといっても、種類は様々ある。
 例えばWindowsの「メモ帳」もテキストファイルを編集するという性格上、エディタに分類される。「メモ帳」は、エディタとしては非常に単純なものであって、Windowsの進化と共に多少の機能追加も行われてきているが、編集機能も必要最低限しか備わっていないため、ここでいう文章執筆ツールとしてはあまり向かないと思っている。
 文章執筆により適していると思われるのは、後述する様々な機能を備えた、いわゆる多機能エディタである。

 「メモ帳」では改行コードまでの文字列を1行で表示するのが基本である。画面の大きさよりも行が長いと、右端からはみ出してしまうため、いちいち画面を横にスクロールさせなくてはならない。これを解消するには「右端で折り返す」というコマンドを実行する必要がある。また「メモ帳」では改行コードやタブ、スペースなどの制御文字を表示してくれない。
 文章執筆では、予め何字程度の文章を書くのか決めて書くことも多く、ウィンドウの状況に応じて1行の表示文字数が変わるのでは、書いた量を把握する際に不便である。改行マークやスペースの状況もわからないと、後でテキスト原稿を渡したり別のアプリケーションで編集するときに、思わぬところで改行されていたり変に間が空いていたりして不自然になることもある。

 もちろん、「メモ帳」型のシンプルエディタの中にも、この辺の設定ができるものもある。何字・何行書いたかを把握するためのスケール表示・行数表示と禁則処理まであると、とりあえず文章執筆のために十分利用できるものであると言える。
 このようなシンプルなエディタは、エディタがどのようなものであるかの入門に最適であるが、多機能エディタになると、さらに高度な機能を使い切れないほど豊富に備えていて、文章執筆の環境が非常に豊かになる。

 多機能エディタでは、1行に表示する文字数を指定できるのが普通である。字数設定は、他の設定項目とあわせてファイルの拡張子ごと保存され、ファイルが開かれる時に拡張子が判別され設定が自動的に適用されるようになっている。改行コードやタブなどの制御コードは、種類別に表示・非表示を選択できるのが一般的である。表示の設定を幾つも作っておいて切り替えを容易にできるようにしたものもある。
 さらに、文字色、背景色の色分けや、カーソル行のアンダーラインの有無なども細かく設定できるようになっていて、自分好みの見やすい画面を作り出すことが可能である。
 また、縦書き表示・編集に対応しているものもあり、小説を書いたり縦書きで掲載する文章の原稿を書く人などに重宝がられている。

 ウィンドウのタイプでも、エディタを区分することができる。
 一つは、ファイルを開く度に新しいウィンドウを開く、すなわちエディタを別にもう一つ起動するようなタイプである。一つのアプリケーションに一つのドキュメントウィンドウなので、シングル・ドキュメント・インターフェイス(SDI)と呼ばれていて、「メモ帳」型のシンプルエディタはほとんどがこのタイプである。

 もう一つは、ワープロソフトのように起動するアプリケーションは一つだけで、ファイルを開く度にアプリケーションウィンドウの中にいくつものウィンドウを開くタイプである。こちらのほうは、マルチ・ドキュメント・インターフェイス(MDI)と呼ばれ、多機能エディタに多い。
 ただ、最近ではMDIよりタブ切り替え型が一般的になり、そもそもSDIタイプのエディタでもタブを表示させて同じウィンドウ内で他文書への切り替えをできるようにするものが多い。

多機能エディタ

 MS-DOSの頃の市販エディタでは、「VZ Editor」や「MIFES Editor」が非常に有名であった。この二つのエディタは、それ以後の多くのエディタに操作方法やコンセプトなど、大きな影響を与えている。
 Windows用のエディタでは、パッケージ製品で市販されているものとしては「MIFES」と「WZ EDITOR」が有名だ。以前は「Boon Editor」など他にもいくつか発売されていたが、今はほとんど絶版となっている。
 エディタは、オンラインソフトの世界のほうが種類が豊富である。Windows用として最も有名なのが「秀丸エディタ」で、MIFESやWZと共に老舗の部類のエディタになった。他にも多機能エディタとしては「EmEditor」をはじめとして幾つかのものがある。

 なお、縦書き表示・編集に対応している多機能エディタは少なく、「WZ EDITOR」「秀丸エディタ」くらいである。無論、汎用的かつ多機能エディタの分類までには至らないと思えるエディタの中には、縦書きもできて文章書きを主目的としたものは幾つかある。

エディタとワープロ

 ワープロは文書を作成するためのソフトであって、印刷機能が重要視されている。ところがエディタは、テキスト(ないしは文字列)を編集するアプリケーションなので高度な印刷機能は必要とされていない。「可能である」程度の印刷機能しか備えていないものもあるが、多機能エディタの中には一般的な文書作成ならワープロや印刷ツールの力を借りなくともいいほどの機能を持っているものもある。
 文章執筆を行う以上、書いた文章を印刷する必要は必ず出てくる。特に日本語文章では字数・行数指定や禁則処理などのオプションも必要となる。印刷機能にも優れたエディタになると、これらのオプションが設定できる。本格的なDTPやビジュアル志向の文書作成になると、ワープロソフトの印刷機能には及ばないとしても、エディタで行う印刷は基本的には原稿の印刷なので、そこは棲み分けができている感じがある。

 アプリケーションの特徴を知り、使い分けをすることは重要である。これは文章の作成や印刷に限ったことではなく、様々な作業をしていく上での鉄則である。
 文章作成・編集にはそれを得意とするエディタを活用し、印刷のためにはそれを得意とするワープロや印刷ユーティリティに任せる。エディタで作成するのはテキストファイルであるので、どんなワープロでも印刷ユーティリティでも、そのまま読み込むことができる。専門のアプリケーションを活用し、互いに機能を補完させることで、強力な執筆システムを構築できる。

 エディタは、一般的なワープロソフトより多少難しい部分があるようにも思う。文章執筆ツールとして使いこなすには、少なくともワープロの基本的な操作とその役割を一通り理解したユーザーである必要があるかもしれない。ワープロはユーザー層が幅広い分だけガイド機能もしっかりとしており、初心者でも比較的簡単に基本的な文書が作成できるようになっているが、エディタはそもそも中級者以上向けの作りになっていて、初心者では手を出しにくい雰囲気がある。

テキストファイル

 エディタで作成できるのは、基本的にテキストファイルに限られる。テキストファイルとは文字と改行やタブなど一部の制御コードだけが含まれたファイルである。どんなアプリケーションでも読み込むことができる、最も基本となるファイルフォーマットであって、システムの設定に必要なファイルや、アプリケーションソフトの説明ファイルなども、ほとんど全てがテキストファイルで提供されている。
 インターネット・ホームページのHTMLもテキストファイルである。電子メールの実態も、基本的にテキストファイルである。

 対して、ワープロなどが作成するファイルはバイナリファイルと呼ばれ、そのアプリケーション独自の形式である。文字情報の他に、文字サイズや文書の書式設定に関する情報も含んでいる分、テキストファイルに比較してファイルサイズが大きくなる。また、基本的にそのアプリケーション以外では開いたり編集したりすることが出来ず、汎用性はテキストファイルよりは小さい。

 以下、エディタが持つ豊富な機能を簡単に紹介することにする。

画面表示に関して

 エディタの世界では、1行に80字を表示するというのが標準である。パソコンでは文字数は半角換算で言うので、全角文字では1行40字ということになる。この標準は、MS-DOSの画面が80文字表示だったことなどからきているように思う。
 半角80字というのは、非常にきりのいい数字だ。5行で200字、10行で標準原稿用紙と同じ400字になる。標準的な文字サイズなら、よく使われるA4サイズの用紙にぴったり収まる文字数でもある。

 ところで、エディタの世界には「行」の定義の仕方が2種類ある。
 一つは、一つの改行コードまでを1行と定義する「論理行」「エディタ的」であって、もう一つは画面表示上の1行をそのまま1行と定義する「表示行」「ワープロ的」である。行番号を表示できるエディタでは、どちらの方式によるかの切り替えも可能となっているのが普通である。
 そもそも、1行何文字というのは単に表示上だけの話なので、ファイル内部では常に改行コードまでが1行として扱われている。プログラムのソースを書いたりする場合には、論理行表示の行番号が通用しており、後述するGrepやタグジャンプ機能についても、その場合の行番号は論理行を指すことが一般的である。

テキストの整形ということ

 テキスト形式の各種説明ファイルなどは、「メモ帳」など標準では右端で折り返さないアプリケーションで開かれる(読み込まれる)ことも想定し、意味の切れる所とは関係なく60字や70字で必ず改行(強制改行)してあるものも多く見られる。最近ではメールの本文もこうするのがルールとなっている。
 このような書式にすることを、整形すると言うが、整形テキストでは後から語句を挿入したりして文字数が増えた際には、そのたび毎に改行マークを一旦削除して、再度指定文字数で改行するように調整しなければならない。改行コードを跨いでいるため字句の検索から除外されてしまうこともある。

 多機能エディタでは自動整形機能を備えているものがあり、指定文字数で自動的に改行コードを挿入してくれる。後から字句を追加した際には、改行コードを一旦無視して折り返し処理を行い、その後でまた自動的に改行コードを挿入してくれる。改行コードを跨いでいても検索してれくる機能も備えている。

正規表現検索

 エディタの世界においては、文字列の検索ということが非常に重要視されている。
 MS-DOSやWindowsでは、ワイルドカードという検索方式が用いられる。0文字以上の任意の文字列を「*」で表現し、任意の1文字を「?」で表すことになっている。エディタの世界では、正規表現という検索方式があって、同じ行(論理行)中に含まれる特定の文字列パターンを幾つもの要件で抽出することができる。

 例えば、行頭にある「第n章」(nは半角数字)のみを抽出したい場合、ワイルドカードならばとりあえず「第?*章」という表現をする。しかし、この方法では第1章や第12章などばかりではなく、「第三章」「第十五章」「第2は次の章」といった表現も検索対象としてマッチする。さらに、ワイルドカードでは行頭にあるかどうかを判断することはできない。
 これを、正規表現を使って「^第[0-9]+章」で検索すると、行頭にある第n章のみを正確に抽出することができる。

 正規表現は、これらの表現以外にも、各種の記号を使って、より複雑な検索条件を指定することができる。細かい検索オプションが設定できるので、文章執筆に有効な、より高度な文字列検索ができるようになっている。
 多機能エディタではたいていのソフトにおいてこの正規表現検索が行える。ワープロソフトにおいて、このような正規表現検索ができるものはほとんどなかったが、最近では正規表現が使える物もあるようだ。

Grep機能

 エディタでは、複数のファイルに亘ったグローバルな検索もできる。「Grep」と呼ばれる(Globally search for Regular Expression and Print )。検索文字列(正規表現も使用可)を指定し、さらにワイルドカードと組み合わせて複数のファイルを検索範囲に指定すると、それらのファイルに含まれた検索文字列を抜き出し、ファイル名と行番号(論理行)と共に、文字列部分の前後を一覧にして表示してくれる。
 Grepを使えば、例えば過去に作成したテキストファイルの中から「パソコン」という言葉を全て抜き出すようなこともできる。正規表現と組み合わせて、「パソコン」と「買(う)」が同一文中にある部分だけを抜き出すという高度なことも可能である。

タグジャンプ

 エディタでは、ブラウザのように他のファイルを参照することも容易である。ファイル名が記述された行にカーソルを置き、タグジャンプというコマンドを実行すると、そのファイルをオープンしてくれる。さらに、ファイル名と共に行番号まで記述されていると、自動的にその番号の行へジャンプしてくれる。
 タグジャンプとはまた少し違いますが、最近のエディタでは、URLが記述された部分をクリックすると自動的にブラウザを立ち上げてそのページを表示してくれたりもする。

 タグジャンプは、元々プログラムのデバッグのための機能だった。コンパイル中にエラーが発生した場合など、表示されたファイル名と行数を参照して、そのファイルをオープンし、その該当個所を編集可能状態にするわけである。
 文章執筆においては、参照したいファイル名を記述しておき、いつでもそこへジャンプできるようにする、というような使い方が考えられる。あるいは、この機能を応用して、簡易なハイパーテキスト文書を作成することもできる。

アウトライン機能

 文章執筆ツールとしてエディタを使うユーザーが増えてきたことから、ワープロに習って一部のエディタにも導入し始められた機能として、アウトライン機能がある。文章の概要をわかりやすく表示し、全体の構成を組み上げる機能である。
 予め設定した見出し文字列を検索して一覧表示し、そのパラグラフの階層の上げ下げやパラグラフ位置の入れ替えを行ったりする。
 文章全体の流れをつかむのに、この機能は最適であり、論文や長い文章など、要旨を系統立てて書く文章にとっては、非常に有効に機能することとなる。また、見出しを付けて書きたいことを箇条書きにしておき、アウトライン機能を活用してパラグラフを整え、箇条書きを膨らませて一つの文章を完成させるという書き方にも応用できる。

 エディタの一種にも分類されたりしているが、これを専門に行うアウトラインプロセッサというソフトもある。

カスタマイズ

 エディタの大きな特徴の一つに、豊富なカスタマイズ機能が挙げられる。キー操作やメニューバー、ツールバーなどを自由に変え、自分好みの執筆環境を作り出す。使わない機能を割り当てやバーから削除し、よく使う機能を使いやすいキーやツールボタンに割り当てることもできる。自分好みに使いやすくするエディタのカスタマイズ機能に関しては、他のアプリケーションの及ぶところではない。

 多機能エディタでは、このようなカスタマイズと併せて、画面の表示色やファイル保存とバックアップのオプション、IMEの自動起動、ウィンドウサイズ、画面のスクロール速度やカーソル形状まで、自分好みに設定ができるようになっている。
 設定は拡張子群別に幾つも保存できるのが普通で、その拡張子群のファイルが開かれると、該当する設定が読み込まれる仕組みになっている。

 ユーザー好みの環境をかなり自由に作り出せることは、執筆ツールとしてそれぞれのユーザーの手に馴染むということを意味している。動作が軽快であることを含め、エディタを文章執筆のための常用ツールとするユーザーがいる理由は、まさにこの辺にあるように思う。
 ただし、操作に慣れないうちは、あまりカスタマイズはしないほうがいい。エディタに限ったことではないが、操作方法を修得していないうちにあちこちの設定を変えてしまうと、後で元に戻せなくなったり、標準の機能が使えなくなって、再インストールなどを強いられたりすることになりかねない。
 標準の操作を一通りマスターした後で、ここをこうしたいという要望が出てきた時になってからカスタマイズを大いに活用するのが良い。

マクロ機能

 自分好みの環境を作り出すということでは、マクロ機能も忘れてはならない。マクロとは、予め操作手順を記録し、その記録された操作を再現することである。同じ操作の繰り返しをする必要がある場合や、複雑な操作をしなければならない場合、それらを自動的に行わせることができる。

 マクロ機能には、大別すると二つの種類が存在する。一つは、ユーザーが行ったキーボードやマウスからの操作を記憶し、それを必要に応じて実行させる、いわゆるキーボードマクロ。もう一つは、操作手順を規則に従ってユーザーが文字で記述し、それを必要に応じて実行させる、いわゆるプログラミングマクロである。
 比較的簡単なのは前者である。マクロの記録開始操作を行ってから、記録終了の操作を行うまでの操作が自動的に、正確に記録される。記録再現の操作を行うと、記録された操作がそっくりそのまま再現される。つまり、同じ操作を行わなくても良い。記録した手順に名前を付けるなどして、それをカスタマイズ機能によって任意のキーに割り付けたり、メニューやツールバーに割り付けて、必要に応じて簡単に記録された操作が実行されるようにすることもできる。

 例えば、あるユーザーが手紙文を書く場合、「拝啓」などの頭語の後、改行してスペースを挿入し(字下げ)、そこから本文を書き出すという手順をとっていたとする。マクロの記録開始操作を行ってから、頭語入力、改行、スペース挿入の操作を順に正確に行い、記録終了操作をする。記録した操作に「手紙頭語」とでも名前を付け、その機能を実行するために任意のキー(例えばCTRL+T)に割り付けます。次からは、そのキー(CTRL+T)操作を行うだけで、「拝啓」を入力、改行してスペースを挿入する操作が自動的に行われ、すぐに本文が入力できる状態になるというわけである。

 プログラミングマクロも、基本は同じである。ただし、記録操作を行わず、すべて決められた文法に従って文字列で記述する。キーボード操作だけでは実行できない機能を自動化する時などに利用する。
 記録済のキーボードマクロを編集する形でもプログラミングマクロは作成できる。記録操作を行って作成したキーボードマクロの実行手順を、プログラミングマクロの文法で記述させ、それをユーザーが編集する。もちろんプログラミング文法で作成する「ソースファイル」はテキストファイル形式である。

 プログラミングマクロというのは、本当に強力である。物によっては、自分で新たなアプリケーションを作り出せるほど凄いものである。新たなアプリケーション、つまりはプログラムを作り出すには、プログラミング言語の修得が必要であるわけですが、エディタに搭載されているマクロ言語も、本格的なプログラミング言語そのものか、その簡易版と言っていい実力を持ち合わせているものもある。
 問題は、プログラミングマクロを作り出す場合のマクロ言語が、誰にでもわかるものではないということである。プログラムに関する基礎知識がないと、理解するのがきわめて難しいものである。しかもその文法はアプリケーションによって様々であり、さらにわかりにくいものとなってしまっていることは問題だ。せめてヘルプを充実させ、ビギナーでも気楽に扱えるような言語であって欲しいと願う。

筆者の執筆環境

 自分の場合も、以上のような点を考えて、文章の執筆はワープロではなくエディタですることがほとんどである。無論、この文章もエディタで執筆している。自分がエディタを使うようになったのは、文章執筆のプロの方々が、よくこのような使い方をしていると聞いたのがきっかけであった。作家が愛用しているのと同じ型の万年筆を使ってみたくなるのと同じ、単純な理由ではあったが、実際に使ってみてその快適さに驚いている。

 今の時点で使っているのは、WZ EDITOR 10である。多彩な編集機能、豊富なカスタマイズ項目、縦書き編集やアウトライン編集ができること、高度なHTMLエディタとして使える点などが気に入っていてWZ EDITORはVersion 1.00、Windows3.1時代からの付き合いである。

 イラストや表・グラフを文書中に取り込んだ複雑なレイアウトを持つ文書、何度も更新して何度も印字する必要のある文書など、書式設定そのものが意味を持つ文書に関しては、主にワープロの一太郎で作成することにしている。

エディタについて

 エディタは愛好者が多いとはいえ、全体数から見た普及率は低いかもしれない。文章執筆ツールとしては、文章執筆から印刷、文書管理までの一連の作業が一つのアプリケーションで行えるワープロがやはり主流である。メーカー製パソコンにはWordがプレインストールされているということも大きな理由である。

 エディタが敬遠されるのは、プログラム開発ツールであったということや、細かい設定ができるという特徴が、ワープロよりも難しい「中・上級者ツール」というイメージを生み出しているせいなのかもしれない。
 しかし、エディタは文章執筆ツールとして非常に有効なアプリケーションであり、また、基本的な操作なら難しいということはない。文章執筆以外でも、あちこちにあるテキストファイルの閲覧・編集や、設定ファイルの編集など、かなり幅広い使い方ができることを考えると、もっと積極的に導入されてよいアプリケーションである。

当時の主要参考文献

 中尾浩『文科系のパソコン技術』 中公新書
 岡本茂・仙波一郎・中村芳昭・高橋和子『パソコン用語辞典 第5版』 技術評論社
 たくきよしみつ『鉛筆代わりのパソコン術』 CYBiZ
 鐸木能光『インターネット時代の文章術』 SCC Books
 「この夏、エディタ使いになる!」『ASAHIパソコン Vol.227』(1998.8.15)
 野口悠紀雄『「超」知的生産とパソコン』 アスキー出版局

執筆と改版

 96/12/01 23:17(初稿)
 98/08/02 22:07(改訂) WZ Editor 2.00E
 00/10/29 12:41(改訂) WZ EDITOR 4.00D
 19/10/26 (改訂) WZ EDITOR 10