文章執筆ツールとしてのテキストエディタ(改版)

文章執筆ツールとしてのテキストエディタ(改版)

テキストエディタに関してかなり前に書いた文章を探し出したので、ここにそのまま置いておくことにします。今の情勢や考えに合わない部分も多々あります。

前文 - 文章執筆ツール

 文書を作成し、形式を整えて印刷し、作成した文書を保存しておくという一連の文書処理は、パーソナルコンピュータを用いて行うことが一般的になってきています。このような処理過程に使用されるものとしては、まずワードプロセッサが有名でです。文書作成と印刷、文書管理までを一つのソフトウエアで統括できるため、文書処理に多用されるようになったわけです。

 しかし、文書作成の最も根幹となるのは文章執筆という作業である。ワードプロセッサにおいてもこの作業は重要視されていますが、同様に文章執筆を行うソフトウエアとして、テキストエディタがあります。テキストエディタは、文章執筆以外でも様々な目的に利用されているわけですが、ここでは文章執筆ツールとしてのテキストエディタが、どのようなものであるかということを紹介したいと考えます。
 なお、筆者の環境がWindowsであるため、Windows環境を中心とした説明とさせて頂くことをお断りしておきます。

エディタの概要・一般的な評価など

 エディタは元々、プログラムソースを作成・編集するためのツールでした。その性格上、ファイル管理や文字列操作などの編集機能に非常に優れており、作業を楽に行うために、ユーザー好みの環境が作り出せるようになっています(カスタマイズ)。エディタのこうした特徴は、文章の作成や編集にも有効に利用することができるため、文章執筆ツールとしても多用されるようになりました。

 MS-DOS全盛時代からWindows時代の今に至るまで、文章執筆ツールの王道をゆくワープロは、様々な機能の追加によりプログラムサイズが増加しました。高度な動作環境を要求するようになったことと共に、動作速度の低下も招いています。その上、作成するファイルは独自の形式であるために、幅広い活用ができないという問題も生じています。

 もともとプログラム作成・編集ツールであったエディタには、文字列の装飾や印刷レイアウトに関する機能は不要でした。このため、プログラムサイズはコンパクトで、起動はほぼ瞬時に行えるものもあり、動作は実に軽快です。
 扱うファイルがテキストファイルであるため、作成した文書は様々なソフトウエアで活用できます。高度なテキスト編集機能が特に文章執筆のプロに持てはやされたことにより、エディタは文章執筆ツールとして市民権を得ました。
 最近のエディタは、このような状況を受けて文章執筆に主眼をおいた設計となってきており、さらにエディタの愛好者が増えているようです。

様々なエディタ

 一口にテキストエディタといっても、種類は様々です。
 例えば、Windowsのメモ帳もテキストファイルを編集するという性格上、テキストエディタとされています。メモ帳は、エディタとしては非常にシンプルなものです。ただ、画面表示の問題と、読み込めるファイルのサイズに制限がある(メモ帳では50KB)ことなどにより、文章執筆ツールとしてはあまり向かないように思います。
 もちろん文章の執筆のために使えないわけではありませんが、文章執筆により適していると思われるのは、後述する様々な機能を備えた、いわゆる多機能エディタであると考えます。

 エディタは、まずこのようにメモ帳のようなシンプルエディタと多機能エディタに区分されます。明確な区分ラインはありませんが、テキスト表示の方式やカスタマイズ機能の豊富さが、その目安となるでしょう。

 例えばメモ帳では、改行コードまでの文字列を、デフォルトでは1行で表示します。画面の大きさよりも行が長いと、右端からはみ出してしまうため、いちいち画面を横にスクロールさせなくてはなりません。これを解消するには、「右端で折り返す」というコマンドを実行する必要があります。また、メモ帳では改行コードやタブ、スペースなどの制御文字を表示してくれません。
 文章執筆では、予め何字程度の文章を書くのか決めて書くことも多く、起動の度に1行の文字数が変わるのでは、書いた量を把握する際に不便を感じます。改行マークやスペースの状況もわからないと、後でテキスト原稿を渡したり別のソフトウエアで編集するときに、おかしなところで改行されていたり変に間が空いていたりして不自然になることもあるかと思われます。

 もちろん、シンプルエディタの中にも、この辺の設定ができるものもあります。何字・何行書いたかを把握するためのスケール表示・行数表示と禁則処理まであると、とりあえず文章執筆のために十分利用できるものであるといって差し支えありません。エディタがどのようなものであるかの入門に最適です。
 多機能エディタになると、さらに高度な機能を使い切れないほど豊富に備えていて、文章執筆の環境が非常に豊かになります。

 多機能エディタでは、1行に表示する文字数を指定できるのが普通です。字数設定は、他の設定項目とあわせてファイルの拡張子ごと保存され、ファイルが開かれる時に拡張子が判別され設定が自動的に適用されるようになっています。改行コードやタブなどの制御コードは、種類別に表示・非表示を選択できるのが一般的です。
 さらに、文字色、背景色の色分けや、カーソル行のアンダーラインの有無なども細かく設定できるようになっていて、自分好みの見やすい画面を作り出すことが可能です。
 また、縦書き表示・編集に対応しているものもあり、作家の方を中心に重宝がられています。

 ウィンドウのタイプでも、エディタを区分することができます。
 一つは、ファイルを開くごとに新しいウィンドウを開く、すなわちエディタを別にもう一つ起動するようなタイプです。一つのアプリケーションに一つのドキュメントウィンドウなので、シングル・ドキュメント・インターフェイス(SDI)と呼ばれています。  シンプルエディタはほとんどがこのタイプです。

 もう一つは、ワープロソフトのように起動するアプリケーションは一つだけで、ファイルを開くごとにアプリケーションウィンドウの中にいくつものウィンドウを開くタイプです。こちらのほうは、マルチ・ドキュメント・インターフェイス(MDI)と呼ばれ、多機能エディタに多いタイプです。

 一般に起動はSDIのほうが速く、デスクトップはMDIのほうが整然としているという特徴がありますが、どちらが優れているかと言うことではなく、好みの問題であるように思います。

ソフトウエアとしては

 MS-DOSの市販エディタでは、「VZ Editor」や「MIFES Editor」が非常に有名です。この二つのエディタは、それ以後の多くのエディタに操作方法やコンセプトなど、大きな影響を与えています。
 Windows 95/98用のエディタでは、市販されているものとしては「WZ EDITOR」が最も有名です。以前は「Boon Editor」等いくつか発売されていましたが、今は絶版となっているものもあるようです。
 Windowsのエディタは、オンラインソフトの世界のほうが種類が豊富です。最も有名なのが「秀丸」で、Windowsのエディタとしては定番中の定番です。他に、「EmEditor」「QXエディタ」や「MMエディタ」などが多くのシェアを誇っています。

 紹介したのはいずれも多機能エディタの類であり、「WZ EDITOR」「秀丸」「EmEditor」がSDI、「Boon Editor」「QXエディタ」や「MMエディタ」がMDIとなっています。「秀丸」と「EmEditor」以外は、縦書き編集に対応しています。

エディタとワープロ

 ワープロは文書を作成するためのソフトであって、印刷機能が重要視されています。ところがエディタは、テキスト(ないしは文字列)を編集するソフトウエアですから、高度な印刷機能は特に必要としません。エディタによっては、「可能である」程度の印刷機能しか備えていないものもありますが、最近の多機能エディタでは、一般的な文書作成ならワープロや印刷ツールの力を借りなくともいいほどの機能を提供してくれるものもあります。
 文章執筆を行う以上、書いた文章を印刷する必要は必ず出てくるものです。特に日本語文章では、字数・行数指定や禁則処理などのオプションも必要となります。印刷機能にも優れたエディタになると、これらのオプションが設定できるものもあります。しかしさすがに本格的なDTPやビジュアル志向の文書作成になると、ワープロソフトの印刷機能にはまだ及ばない感じがあります。

 ソフトウエアの特徴を知り、そのソフトウエアとの使い分けをすることは重要です。これは文章の作成と印刷に限ったことではなく、パソコンで様々な作業をしていく上での鉄則であると考えます。
 文章作成・編集にはそれを得意とするエディタを活用し、印刷のためにはそれを得意とするワープロや印刷ユーティリティに任せるわけです。エディタで作成するのはテキストファイルであるので、どんなワープロでも印刷ユーティリティでも、そのまま読み込むことが可能です。
 テキスト編集はエディタ、印刷はワープロや印刷ユーティリティというふうに、専門のソフトウエアを活用し、互いに機能を補完させることで、強力な執筆システムを構築できると考えます。

 エディタは、一般的なワープロソフトより多少難しい部分があるようにも思います。エディタを文章執筆ツールとして使いこなすには、少なくともワープロの基本的な操作とその役割を一通り理解したユーザーである必要があるかもしれません。ワープロはユーザー層が幅広い分だけガイド機能もしっかりとしており、初心者でも比較的簡単に基本的な文書が作成できるようになってますが、エディタについては中級者以上向けという雰囲気が強いのも事実です。
 無論、どちらが優れたソフトウエアであるということはありません。これらソフトウエアのコンセプトの違いを、日常の知的生産活動にいかにして応用してゆくかということのみが重要です。

テキストファイルに関すること

 エディタで作成できるのは、テキストファイルに限られます。
 テキストファイルとは、文字情報と改行やタブなど一部の制御コードだけが含まれたファイルです。どんなアプリケーションでも読み込むことができる、最も基本となるファイルフォーマットです。システムの設定に必要なファイルや、アプリケーションソフトの説明ファイルなども、ほとんど全てがテキストファイルで提供されています。
 インターネット・ホームページのHTMLもテキストファイルです。電子メールも、エンコードと呼ばれるコード変換作業を経ますが、テキストファイル形式であることに違いはありません。
 テキストファイルは、幅広く応用されています。

 対して、ワープロなどが作成するファイルはバイナリファイルと呼ばれ、そのソフトウエア独自の形式です。文字情報の他に、文字サイズや文書の書式設定に関する情報も含んでいる分、テキストファイルに比較してファイルサイズが大きくなります。また、基本的にそのソフトウエア以外では開いたり編集したりすることが出来ず、応用性の面では大きな問題があります。

 以下、エディタが持つ豊富な機能を簡単に紹介することにします。

画面表示に関して

 エディタの世界では、1行に80字を表示するというのが標準です。パソコンでは文字数は半角換算で言うので、全角文字では1行40字ということになります。この標準は、MS-DOSの画面が80文字表示ということなどからきていると思われます。
 半角80字というのは、非常にきりのいい数字です。5行で200字、10行で標準原稿用紙と同じ400字になります。標準的な文字サイズなら、よく使われるA4サイズの用紙にぴったり収まる文字数でもあります。

 ところで、エディタの世界には「行」の定義の仕方が2種類あります。
 一つは、一つの改行コードまでを1行と定義する「論理行」「エディタ的」であって、もう一つは画面表示上の1行をそのまま1行と定義する「表示行」「ワープロ的」です。行番号を表示できるエディタでは、どちらの方式によるかの切り替えも可能となっているのが普通です。
 そもそも、1行何文字というのは単に表示上だけの話でありますから、ファイル的には常に改行コードまでが1行として扱われています。プログラムのソースを書いたりする場合には、論理行表示の行番号が通用していますし、後述するGrepやタグジャンプ機能についても、その場合の行番号は論理行を指すことが一般的です。

テキストの整形ということ

 テキスト形式の各種説明ファイルなどは、メモ帳など、標準では右端で折り返さないアプリケーションで開かれる(読み込まれる)ことも想定し、意味の切れる所とは関係なく60字や70字で必ず改行(強制改行)してあるものも多く見られます。最近ではメールの本文もこうするのがルールとなっています。このような書式にすることを、整形すると言います。
 整形テキストでは、後から語句を挿入したりして文字数が増えた際には、そのたび毎に改行マークを一旦削除して、再度指定文字数で改行するように調整しなければなりません。また、改行コードを跨いでいるので、字句の検索から除外されてしまうこともあります。

 多機能エディタでは自動整形機能を備えているものがあり、指定文字数で自動的に改行コードを挿入してくれます。後から字句を追加した際には、改行コードを一旦無視して折り返し処理を行い、その後でまた自動的に改行コードを挿入してくれます。
 また、改行コードを跨いでいても検索してれくる機能も備えています。

正規表現検索

 エディタの世界においては、文字列の検索ということが非常に重要視されています。

 MS-DOSやWindowsでは、ワイルドカードという検索方式が多用されます。0文字以上の任意の文字列を「*」で表現し、任意の1文字を「?」で表すことになっています。エディタの世界では、正規表現という検索方式があります。同じ行(論理行)中に含まれる特定の文字列パターンを抽出するためのものです。

 例えば、行頭にある「第n章」(nは半角数字)のみを抽出したいとします。ワイルドカードならばとりあえず「第?*章」という表現をするでしょうか。しかし、この方法では第1章や第12章などばかりではなく、「第三章」「第十五章」「第2は次の章」といった表現も検索対象となってしまいます。また、ワイルドカードでは行頭にあるかどうかを判断することはできません。
 これを、正規表現を使って「^第[0-9]+章」で検索すると、行頭にある第n章のみを正確に探し出すことができます。

 正規表現は、これらの表現以外にも、各種の記号を使って、より複雑な検索条件を指定することができます。細かい検索オプションが設定できるので、文章執筆に有効な、より高度な文字列検索ができるようになっています。
 多機能エディタではたいていのソフトにおいてこの正規表現検索が行えます。ワープロソフトにおいて、このような正規表現検索ができるものは見たことがありません。

Grep機能

 エディタでは、複数のファイルに亘ったグローバルな検索もできます。「Grep機能」または単に「Grep」と呼ばれます(Globally search for Regular Expression and Print )。検索文字列(正規表現の使用可)を指定し、さらにワイルドカードと組み合わせて複数のファイルを検索範囲に指定すると、それらのファイルに含まれた検索文字列を抜き出し、ファイル名と行番号(論理行)と共に、文字列部分の前後を一覧にして表示してくれます。
 Grep機能を使えば、例えば過去に執筆した文章の中から、「パソコン」という言葉を全て抜き出すことができます。正規表現と組み合わせて、「パソコン」と「買(う)」が同一文中にある部分だけを抜き出すという高度なことも可能です。ただし、無論検索対象となるファイルが全てテキストファイルである必要があります。

タグジャンプ

 エディタでは、ブラウザのように他のファイルを参照することも容易です。ファイル名が記述された行にカーソルを置き、タグジャンプというコマンドを実行すると、そのファイルをオープンしてくれます。さらに、ファイル名と共に行番号まで記述されていると、自動的にその番号の行へジャンプしてくれます。
 タグジャンプとはまた少し違いますが、最近のエディタでは、URLが記述された部分をクリックすると自動的にブラウザを立ち上げてそのページを表示してくれたりもします。

 タグジャンプは、元々プログラムのデバッグのための機能でした。コンパイル中にエラーが発生した場合など、表示されたファイル名と行数を参照して、そのファイルをオープンし、その該当個所を編集可能状態にするわけです。
 文章執筆においては、参照したいファイル名を記述しておき、いつでもそこへジャンプできるようにする、というような使い方が考えらます。あるいは、この機能を応用すると、WindowsのヘルプやHTMLにも似た簡易ハイパーテキストを作成することもできます。

アウトライン機能

 文章執筆ツールとしてエディタを使うユーザーが増えてきたことから、ワープロに習って一部のエディタにも導入し始められた機能として、アウトライン機能があります。文章の概要をわかりやすく表示し、全体の構成を組み上げる機能です。
 予め設定した見出し文字列を検索して一覧表示し、そのパラグラフの階層の上げ下げやパラグラフ位置の入れ替えを行ったりします。
 文章全体の流れをつかむのに、この機能は最適であり、論文や長い文章など、要旨を系統立てて書く文章にとっては、非常に有効に機能することとなります。また、見出しを付けて書きたいことを箇条書きにしておき、アウトライン機能を活用してパラグラフを整え、箇条書きを膨らませて一つの文章を完成させるという書き方にも応用できます。

 エディタの一種にも分類されたりしていますが、これを専門に行うアウトラインプロセッサというソフトもあります。

カスタマイズ

 エディタの大きな特徴の一つに、豊富なカスタマイズ機能が挙げられます。キー操作やメニューバー、ツールバーなどを自由に変え、自分好みの執筆環境を作り出します。使わない機能を割り当てやバーから削除し、よく使う機能を使いやすいキーやツールボタンに割り当てることもできます。自分好みに使いやすくするエディタのカスタマイズ機能に関しては、他のアプリケーションの及ぶところではありません。

 多機能エディタでは、このようなカスタマイズと併せて、画面の表示色やファイル保存とバックアップのオプション、日本語入力システムの自動起動、ウィンドウサイズ、画面のスクロール速度やカーソル形状まで、自分好みに設定ができるようになっています。  設定は拡張子群別に幾つも保存できるのが普通で、その拡張子群のファイルが開かれると、該当する設定が読み込まれる仕組みになっています。

 ユーザー好みの環境をかなり自由に作り出せることは、執筆ツールとしてそれぞれのユーザーの手に馴染むということを意味しています。動作が軽快であることを含め、エディタを文章執筆のための常用ツールとするユーザーが増えている理由は、まさにこの辺にあるように思います。
 ただし、操作に慣れないうちは、あまりカスタマイズはしないほうがいいと思います。これはエディタに限ったことではありません、操作方法を修得していないうちにあちこちの設定を変えてしまうと、後で元に戻せなくなったり、標準の機能が使えなくなって、最悪の場合には再インストールしなければならなくなったりすることもあります。
 デフォルトの操作を一通りマスターした後で、ここをこうしたいという要望が出てきた時になってからカスタマイズを大いに活用するのがいいでしょう。

マクロ機能

 自分好みの環境を作り出すと言うことでは、マクロ機能も忘れてはなりません。マクロとは、予め操作手順を記録し、その記録された操作を再現することです。同じ操作の繰り返しをする必要がある場合や、複雑な操作をしなければならない場合、それらを自動的に行わせることができます。

 マクロ機能には、大別すると二つの種類が存在します。一つは、ユーザーが行ったキーボードやマウスからの操作を記憶し、それを必要に応じて実行させる、いわゆるキーボードマクロ。もう一つは、操作手順を規則に従ってユーザーが文字で記述し、それを必要に応じて実行させる、いわゆるプログラミングマクロです。
 比較的簡単なのは前者です。マクロの記録開始操作を行ってから、記録終了の操作を行うまでの操作が自動的に、正確に記録されます。記録再現の操作を行うと、記録された操作がそっくりそのまま再現されます。つまり、同じ操作を行わなくてもいいというわけです。記録した手順に名前を付けるなどして、それをカスタマイズ機能によって任意のキーに割り付けたり、メニューやツールバーに割り付けて、必要に応じて簡単に記録された操作が実行されるようにすることもできるわけです。

 例えば、あるユーザーが手紙文を書く場合、「拝啓」などの頭語の後、改行してスペースを挿入し(字下げ)、そこから本文を書き出すという手順をとっていたとします。マクロの記録開始操作を行ってから、頭語入力、改行、スペース挿入の操作を順に正確に行い、記録終了操作をします。記録した操作に「手紙頭語」とでも名前を付け、その機能を実行するために任意のキー(例えばCTRL+T)に割り付けます。次からは、そのキー(CTRL+T)操作を行うだけで、「拝啓」を入力、改行してスペースを挿入する操作が自動的に行われ、すぐに本文が入力できる状態になるというわけです。

 プログラミングマクロも、基本は同じです。ただし、記録操作を行わず、すべて決められた文法に従って文字列で記述します。キーボード操作だけでは実行できない機能を自動化する時などに利用します。
 記録済のキーボードマクロを編集する形でもプログラミングマクロは作成できます。記録操作を行って作成したキーボードマクロの実行手順を、プログラミングマクロの文法で記述させ、それをユーザーが編集します。もちろんプログラミング文法で作成する「ソースファイル」はテキストファイル形式です。

 プログラミングマクロというのは、本当に強力です。物によっては、自分で新たなアプリケーションを作り出せるほど凄いものです。新たなアプリケーション、つまりはプログラムを作り出すには、プログラミング言語の修得が必要であるわけですが、エディタに搭載されているマクロ言語も、本格的なプログラミング言語そのものか、その簡易版と言っていい実力を持ち合わせているものもあります。
 問題は、プログラミングマクロを作り出す場合のマクロ言語が、誰にでもわかるものではないということです。プログラムに関する基礎知識がないと、理解するのがきわめて難しいものです。しかも、その文法はアプリケーションによって様々であり、さらにわかりにくいものとなってしまっていることは問題だと思います。せめてヘルプを充実させ、ビギナーでも気楽に扱えるような言語であって欲しいと願います。

筆者の執筆環境

 私の場合も、以上のような点を考えて、文章の執筆はワープロではなくエディタですることがほとんどです。無論、この文章もエディタで執筆しています。私がエディタを使うようになったのは、文章執筆のプロの方々が、よくこのような使い方をしておられると聞いたのがきっかけであった。作家が愛用しているのと同じ型の万年筆を使ってみたくなるのと同じ、単純な理由ではありましたが、実際に使ってみてその快適さに驚いています。

 私が今の時点で愛用しているのは、WZ EDITOR 4.00Dです。多彩な編集機能、豊富なカスタマイズ項目、縦書き編集やアウトライン編集ができること、高度なHTMLエディタとして使える点などが気に入っています。思えば、WZ EDITORはVersion 1.00、Windows3.1時代からの付き合いです。
 美しいパッケージデザインや、テキスト編集のベースツールとしてのエディタを強調しているコンセプトも気に入っています。文章執筆は勿論ですが、各種テキストファイルの編集や閲覧も、HTMLの作成も、ほとんどこのアプリケーションで行っています。

 イラストや表・グラフを文書中に取り込んだ複雑なレイアウトを持つ文書、何度も更新して何度も印字する必要のある文書など、書式設定そのものが意味を持つ文書に関しては、ワープロで作成することにしていますが、そういう文書はプライベートでは作成することがありません。

エディタについて

 エディタは愛好者が増えてきているとはいえ、まだまだ全体数から見た普及率は低いと思います。文章執筆ツールとしては、文章執筆から印刷、文書管理までの一連の作業が一つのアプリケーションで行えるワープロソフトが主流です。メーカー製パソコンではプレインストールされているということも大きな理由です。

 エディタが敬遠されるのは、プログラム開発ツールであったということや、細かい設定ができるという特徴が、ワープロよりも難しい「中・上級者ツール」というイメージを生み出しているせいなのかもしれません。パソコンソフト売り場においても、エディタソフトは、華やかなワープロコーナーの隅か、その他のアプリケーションのコーナーに置かれているに過ぎません。尤も、市販の物は種類が少ないわけですが。  しかし、ここに解説いたしましたように、エディタは文章執筆ツールとして非常に有効なアプリケーションであり、また、基本的な操作も難しいということはありません。文章執筆以外でも、あちこちにあるテキストファイルの閲覧・編集や、設定ファイルの編集など、かなり幅広い使い方ができることを考えると、システムに是非導入して利用して頂きたいソフトウエアであると考えています。

主要参考文献

 中尾浩『文科系のパソコン技術』 中公新書
 岡本茂・仙波一郎・中村芳昭・高橋和子『パソコン用語辞典 第5版』 技術評論社
 たくきよしみつ『鉛筆代わりのパソコン術』 CYBiZ
 鐸木能光『インターネット時代の文章術』 SCC Books
 「この夏、エディタ使いになる!」『ASAHIパソコン Vol.227』(1998.8.15)
 野口悠紀雄『「超」知的生産とパソコン』 アスキー出版局

執筆

 96/12/01 23:17(初稿)
 98/08/02 22:07(改訂) WZ Editor 2.00E
 00/10/29 12:41(改訂) WZ EDITOR 4.00D